梅雨入り一景


今年は沖縄よりも梅雨入り宣言が早かった関東地方だったのは、
他では晴れが多くて早々と猛暑とか言われていたのに、
関東ではそれが嵩じてか大気が不安定で雨も多く、雹やらどかどか降ったりしたせいか。
梅雨の幕開けという報じにふさわしく雨も多くて、
やっと制限が解除されよう行楽への出鼻をくじくには十分といえ。
足元が悪いのは何も未舗装の場所だけじゃあない。
Pタイル張りのフロアは濡れていると滑りやすいし、
そんなところで歩きスマホの無遠慮な若いのに突き飛ばされちゃあ洒落にならない。
まあ、逆に前方不注意で“人間障壁”にぶつかってもそれは自業自得というものだが。
通勤通学のラッシュという時間帯は終わったが、
それでも人の数はさして減ってはない、平日の主幹駅のコンコース。
雑踏は靴音に人声を淡く絡ませたソフトなざわめきを滲ませていて、
やや遠い列車の走行音を背景に場内案内の放送がたまに入り混じって満ちる空間で。

 「…っ、て☆」

デイバッグにキャップ、ダメージジーンズにバッシュという、
いかにも街育ちですという体の青年が、
俯いての手元のスマホだけに集中して歩んでいたところ、
柱や何やなんてないはずと覚えていた進路で何かにぶつかったようで。
自分に非はないとでも言いたいか、不快そうに舌打ちしつつ顔を上げる。
ガツンという感触ではなかったので間違いなく人間が相手。
何をぼーっと突っ立ってやがる、迷惑なんだよとのガンつけをしたかったようだが、

 「?」

自分の視線へ真っ向からかち合ったそれ、
何か?と言いたげな、かなり高い位置からの見下ろし視線にひくりと身がすくむ。
無表情が染みついているかのような硬い面差しは
生まれた時からこうですが何か?と無言で語っているかのようで。
何と言うのか、特に凄んでもない、むしろ面倒臭いなぁというついでの所作だろに
その風貌や態度やらへ孕んでいる威圧が半端ない。
そういうものに縁が薄い者ならさして何も感じなかったかもだが、
ガンの付け合いで勝った負けたというにらめっこをするよな
ある意味 しょうもない対峙を常としているせいか、
殺気とかいうサブカル馴染みな言語ともまた違う、直感に近い何かが基礎となった価値観が、
久々に相手の格の方が圧勝していると弾き出す。

 「す、すいません。」

どのくらい振りかという謝辞をもごもごとこぼして
ササッと尻尾を巻いて自分から足早に遠ざかれば、
聞こえちゃあいないよと言わんばかり、言い切らないうちというタイミングで、
やはりさっさかとその場を離れた相手は、
愛らしい藤色のアンサンブルツーピース姿の存在に駆け寄ってしまう。
どうやらそのお嬢様に仕えている彼らしく。
地味なスーツに撫でつけた髪というかっちりしたいでたちも、
周囲からも頭だけやや飛び出すほどの結構な長身も、
それは器用に気配を消し切っていて、それと判ってて見ないと目立ちはしない。
付き添いとするにはやや距離を残して近づいた相手は、ほっそりとした黒髪の少女で、
正面の入り口へハイヤーで乗り付けでもしたものか、
微かにでも濡れた様子などないままに、寡黙そうな女性の随身を連れて改札へと向け歩んでおり。
自家用車よりも特急を選んでの遠距離移動であるらしく、
彼らの後から、そちらは背広姿の青年がトランクを両手に提げてついてゆく。
腰まで伸ばされた手入れの良い黒髪に、お人形さんを思わせる色白で整った容姿が
気づいた者にはその視線を奪われたままとなるほどの美人さん。
ガードについている男女のような、警戒から発しているそれだろう威容のようなものはまとっていないが、
それでも付き人が居て当然としているような泰然とした態度は感じられ。
足元は事前に丁寧に拭われたコースが確保されているものか、
通勤時間から外れていてさほど混み合ってないとはいえ
結構な利用客が外から持ち込んだ雨に濡れているはずの進路を
背条を伸ばしてすたすたと歩く足取りはゆるぎなく。
そんな彼女に向って小走りにやって来たのは、当駅の関係者だろう濃い色の制服姿の男性で。
ホームへと向かうエレベータのあるホールへと、わざわざ誘導しに来たというなら、
どこかの名士か、はたまた大企業の創始者一家の令嬢なのかも。
ちょっとしたセレモニーのような光景にも見え、
彼らに気づいた利用客らが、何だ何だ、ねえあれ見てよと連れと注目しかかったそんな間合いだったが、

 「…お嬢様っ。」

ハッとした長身の男が少女の前へと飛び出して、その身を盾に庇ったのとほぼ同時。
駆け寄って来ていた駅員が懐から何か掴み出し、
ぶんと腕を振り切った所作で刃先を飛び出させるという剣呑な構えを取った。
バタフライナイフかそれとも何かしらに偽装した仕込みナイフか、
双方ともに立ち止まり、物騒で鋭利な視線を相手へと向ける。
黒髪の少女は後ろから従って来ていた女性に腕を引かれ、
淡い色の双眸を見張ったまま危険な輩から何とか遠ざけられたが、

「きゃあっ!」
「何だ、あいつっ。」

突然幕を開けた物騒な修羅場に、周囲の利用客らが仰天しつつ凍りつく。
さすがに “ドラマの撮影か?”なぞと思うよな雰囲気でも空気でもなかったし、
結構物騒な騒ぎの起きやすいのが此処ヨコハマ。
巨大な浮遊物がいきなり墜落してきたり、
謎の神経ガスで狂暴化した集団通り魔が繁華街で暴れた事件も記憶には新しい。

「……。」

付き人に庇われた格好の少女はだが、怯えているようなそぶりはなく、
無表情なまま自身の護衛と怪しい輩との睨み合いを見やっており。
まだ十代だろうに、このような危険が降りかかってくる自分なのだという境遇も
しっかと認識しているのだろう。

「…このっ。」

奇襲失敗は明らかだったが、それではと尻尾を巻いての撤収というわけにはいかないのか、
駅員に扮した対手はやや腰を落とした構えのまま、
刃を降り出した凶器を前方へと構えて護衛の長身男性と睨み合う。
そのままぐっと踏み出したが、

「…っ。」

いかんせん、場数の差が出たか、
長身の護衛青年はさして仰々しく身構えてもなかったはずだのに、
ほんの瞬きの間合いの後には あっさりと相手を濡れたPタイルの上へとすっ転ばせている。
突っ込んできた敵意むき出しな相手へ彼が為したことと言えば、ぶんッとその腕を一閃しただけ。
袖の先に仕込んでいたのだろう、両端に重りのついたロープを投擲しており。
分銅とかボーラとか呼ばれる、太古の時代からという歴史もつそもそもは狩猟の道具で、
標的に当たったそのままロープの両端にある重石の分銅や玉が遠心力でぶん回され、
紐の部分が対象へと巻き付いて身動きを封じ、捕獲できるという代物で。
それを手首のスナップのみというさらりとした所作一つで相手の足元へと投擲し、
文字通りの一ひねりで両足首を束ねて搦めとっているから凄腕といえよう。

「不審者確保っ!」
「はいっ。」

無様にも倒れ込んだ襲撃者へは
他にも実は潜んでいたのですよという体の黒服もどきがわらわらと飛び出して身柄確保に及んでいたが、
これで一件落着ではなさそうなのか、
お嬢様のすぐ傍らにいる顔ぶれ3人は警戒を解かない。
周囲をぐるりと見回していたが、

 「…っ!」

スーツケースを提げていた男性が、それを思い切りとある方向へとぶん投げた。
すると、そんな物騒で重たげな飛礫を腹へと叩き込まれたパーカー姿の男性が
げっともぐえっとも聞こえたうめき声と共にやや遠方でやはり床へと倒れ込んだが、
その手元からカラカラと回りながら床の上へ弾き飛ばされたのは、何とも物騒なシリンダー銃ではないか。
ここまでの数段重ねでその身を狙われていた少女だったようで、
それぞれなりに腕に覚えのある護衛により立ち位置の三方を固められていたものの、

 「……えっ?!」

当駅の一階ロビー兼コンコースは吹き抜けになっている空間で、
そこを見下ろすように位置する二階部分は一部が通路になってぐるりと縁どる格好になっている。
大人数が利用する公共施設であるためか天井は高いがそれでも何十mもあるでなし、
照明や空調施設の整備用なのだろう足場はしごに何やら引っ掛けた格好、
ワイヤーを手掛かりにしてぶんと宙を滑空してきた輩がいる。
どこの何とかオンアイスか はたまた雑技団なんだろうかと、
ちょっと華麗かもなんて…ことは思わなんだが、
それにしたって畳みかけの段取りは周到な手合いらしき襲撃へ、

 「手ぇ焼かすんじゃねぇよっ。」

か弱い相手に何人がかりか、
だってのに何を偉そうにと言いたくなるような不遜な口調でそうとがなり、
フロアへ着地したそのまま突っ込んできかかった三人目の刺客だったが、

 「……っ!」

護衛三人が気付いて振り返った反射より 微妙に早く突っ込んできそうだったその弾丸野郎へ、

 いち早く対応した影ありて。

流れるように展開してゆく物騒な大立ち回りを、
ただただ見やるしかない雑踏のどこかからひょいと跳び出した“それ”は、
その場にいたあらゆる立場の誰からも予想外の存在で。

  ………え?

もはやお気づきでしょう、
護衛役だった武装探偵社の面々さえ、
思わぬ闖入に一瞬動作が止まりかかった狭苦しい刹那の隙へ、
襲撃者がねじ込まんとした荒々しい殺意目がけて

  突然走り込んできた小さな影が一つあり。

小さな背中をしならせ、それは勇猛な駆けっぷりだったが、
サイズが随分とミニチュアだったため、可愛らしい子猫の闖入&突進に見えなくもない。
ただ、床が濡れていて数歩ほどで つるつるつる〜〜っと滑ったようなのも敢えての織り込み済みか、
暴漢の足元へドスンとぶつかったそのまま、
一瞬たりとも止まらずに たったかたーッと駆け上った器用さはいっそ見事。

 「あ、何だ何だ? 痛々々、いたたったたっ☆」

小柄でも爪は一丁前、それを容赦なく突き出しての登攀用アイゼンのように使っているものだから、
薄着だった部分はさぞかし痛いに違いなく。
ぶっすぶっすと突き立て突き立て、登り切った頭にも容赦なく爪を立てるわ、
鼻の頭に皺を寄せたまま、こともあろうに がぶちょと牙を立てもしたものだから、

「っ、ぎゃあっ!」

あ、別に何か崇高な志あっての襲撃とかじゃねぇな此奴と、
関係者と野次馬一同にあっさり知ろ示したほどの他愛なさ。
其奴は刃物だったらしい得物を吹っ飛ばし、床へ転げて頭に取り付いた何かを剥がそうと暴れ出す。
自身の胴に掴みかかられても怖じず怯まず手も抜かず、

「ぎゃう、がうぎゃおうっ!」

ネコではないのでニャアとは鳴かない。
大人になったら“ごろろん・がおう”と鳴くその予兆であるかのような声で、
雄たけびなのか威嚇なのか、
噛みつく合間合間にわめき立てている小さな猛獣くんを、
状況をいち早く察し、苦笑交じりに見下ろしていたのは護衛班の面々で。
そこへ何か連絡が届いたか、
女性の護衛役が耳元に装着していたヘアピンタイプのインカムに指をあて小声で応対していたが、

 「周辺や施設内に潜んでいた暴漢らも身柄確保は済んだらしい。」

隠密行動向きとはいえ、
不特定多数、しかも普通一般の人の目がある場所で
人がいきなり出たり消えたりする“細雪”は却って使いにくいので、
谷崎は裏方での炙り出しと確保に国木田と組んで回っていたらしく。
見かけ以上に途轍もなく重いトランクをぶん投げた賢治が

 「じゃあこれで任務は終了ですね。」

朗らかに笑ってみせる。
目の前でじたばたしている空中飛行を披露した悪漢はもはや処理済み扱いであり、
ツーピース姿のお嬢様がそこへと自ら踏み出しても誰も止めやしない。というのも、

 「敦っ。」

これでもかこれでもかと、
カプカプ・ていてい、噛むは引っ掻くわ全身で“仕置き”を執行中の小さな白虎の正体はあっさりと看破されていて。
与謝野女医が羽交い絞めにして引き離した輩を、軍警の捕り手らが収容してゆくのを横目で見つつ
苦笑交じりに長身の護衛こと太宰がすっと屈み込み。
どうやってというか何でまた持ち歩いていたものか
自身の日頃のトレードマークでもあろう砂色のトレンチコートをスーツの懐から引っ張り出すと、
そのまま少女の懐に収まった虎くんへとばさりとかぶせ、その手でそのまま子虎に触れれば、

 異能を知る者、感能力のある者にしか見えぬだろう光が放たれ、

そちらもやはり見慣れたいでたちの敦少年が
今日は洋装の鏡花の懐に抱き込まれた格好で姿を現しており。
どこぞかの非力なお嬢様が、
恐らくは親御への復讐かそれとも世間への見せしめか、
お命ちょうだい系の襲撃予告でもされていたらしく。
少女ながらも外交のお勤めをこなしていたようで、
何かしらの役付きでどうしても取り消されぬ予定があったらしく、その移動を狙われようと予測し、
お馴染みのオトリ作戦で相手の実行犯をおびき出し、
そこから依頼主や何やを芋づる式に引っ張り出さんという突貫作戦をとっていた探偵社。
この程度の事案なら名探偵の頭脳でほぼ完璧な予測は可能だが、
実際に立件しようというには論理以上の現物証拠や事実という詳細な報告書がいる。
相手側の正体への近道として、
身柄確保したければ現行犯逮捕が一番手っ取り早い…とするのはちょいと乱暴かも知れないが、
武装探偵社も暇じゃあないので、
穏当に内部調査からやっていては時間がかかると断じての方針切り替えと至った次第で。
そう、相手方への目星がついた時点で潜入捜査にと敦が実行班の近辺を洗っていたはずなのだが、
不意に連絡が取れなくなったための今回の畳みかけ。
鏡花が令嬢の身代わりにと立ったのも、
襲撃に遭って反射的に暗殺のスキルが出はせぬかと案じられたものの、
それは押さえ込んでみせると懇願したからというから…何だか順番がおかしいのはさておいて。

「どうして探偵社へ戻ってこなかったんだい?」
「う…。」

そう、たまたま居合わせて飛び出したというには無理がある。
どうやら故意に此処で小虎のまま待機していたふしがある敦であり、
子供になるか、それとも自身の異能を制御出来なくなるか、
何かしらややこしい異能を掛けられていたらしいというのは察するが、
移動できなかったから探偵社へ戻れなかったというのは理屈としてややおかしい。
まさかにこの駅でこんな姿となる異能を被ったとでもいうものか、
連絡が取れなくなって数日たつのに、誰の目にも留まらずに潜んでいたというのだろうか。

「あんな可愛かったのにそれは無理。」
「鏡花ちゃん?」
「此処のセキュリティもそうそうバカにしちゃあいけないよ?」
「今日はいろんなところに胡乱な輩が潜んでいたけど、
 それはアタシらがちょいと情報流して隙を見せてやったからだしね。」

おびき寄せの段取りですよね、ボクの田舎でも撒き餌とかいろいろありますと賢治くんが朗らかに応じたところで、
そんな会話をしていた彼らの耳へ
近くからではなかったものの、何とか届いたのが重々しいオートバイの起動するイグゾーストノイズだ。
発着する列車の稼働音やら案内放送やら雑踏の生み出すざわざわやらと、
決して静かではないところに届いたそれを頭上に見上げた面々だったが、

「……。」
「そっか、中也だね。」
「えっとぉ。」

この状況下、この少年に縁の深い存在に、そう云やバイク乗りがいたことを太宰が思い出す。
先程のサイズの子虎、ましてや正体は非常に懐き合ってる敦なのだから、懐に突っ込んで運んでも来れたろう。
おおかた、捕まっていたアジトで大暴れして何とか抜け出したところに来合わせたか、
それとも別件で同じ輩へ目串を刺していたかしたポートマフィアの面々が来合せていたとか。
そんな格好で異能に掛かり二進も三進もいかなんだ身になってたところ、
どんな奇遇か押しかけて来た彼らに保護されており、
今日のこの時、ここへ駆けつける助力をしてもらったということか。

 “そういや “あの子”も何か様子が妙だったしねぇ。”

のちに当人の禍狗くんへと訊いたれば、
可愛い子虎になってる敦を見て、
太宰に異能を解いてもらうのが先と判ってはいたが、ちょっと惜しい気もしたようで。
ままそれはさておくにしても、
太宰の異能無効化に触れさせたくはないと思ったらしい、
実は可愛いもの好きな(笑)マフィア側知己らの意向は置いとくとして。
それでも彼は此処へと駆けつけており、
しかもさっき聞こえたオートバイの気配からして中也が足代わりになったというならならで、

「意思の疎通はどうしたの?」
「それは、その…。」

人の言いようは理解出来ても敦の側の言い分はどうしたものか。
筆記具が持てるとも思えず、PCのキーボードも結構大変じゃあと訊いたところ、
大きめの50音黒板を使っての筆談で何とかしたらしく。
中空へ指先でこうでこうと四角を描く敦の所作を見、

 「…なんか可愛い構図に思えるのは気のせいだろうかね。」
 「いやいや、虎くんと意思疎通してみようの図ですから、なかなかほのぼのしてたでしょうよ。」

そもそも、幼児教育用の50音黒板なんてものが備品に有ったのか、ポートマフィア。
筆談にそこまでの用意があるもんか、いやぁ面白がって揃えたんじゃあと、
見ようによっちゃあ、こっちも結構ゆるゆるな会話になっている探偵社側であり。
軍警への対処とってる国木田さんが合流したらそうもいかないのでは…。(笑)

「依頼内容に関しては話していません。」

そこはゆるがせにしちゃあいないですときっぱりと言うものの、
色々と天然、というか、
ちょっとまだまだ世間知らずで経験も足りず、未熟なところの多かりし少年だし、
相手は若いながらも百戦錬磨の大幹部だ。
何日何時にこの駅にどうしても赴きたいと懇願されれば、
探偵社での仕事がらみで何かあるんだろうなという察しくらいはつくし、
潜入していた組織とやらの動向も把握しておれば、
自分たちが絡んでいた案件とは方向違いな事案でも 手繰り寄せるくらいはお茶の子だろうから、
きっとの恐らくどころじゃあない確率で、何が起きていたかも把握されているに違いなく。

 “中也は義理堅いし何より敦くんを不安がらせはしなかろうから、
  貸しだの借りだのにはしなかろうが。”

首領の鴎外にそうもいかないかもしれぬ。
まあそうなればなったで、
どっかで引っ張り出されてもこっちの腹は痛まぬよと持ってけるレベルの案件だしなと、
ふんと一笑に付した、美形包帯上司様。

 「行方が知れなかったものの無事だったのだから
  国木田くんがお説教を始めてもさほど長引きはしないだろう。」
 「そうさね。怒ったふりしてかなり案じていたからね。」

大人の先達二人がくすくす笑い、
年少さんの二人は慣れない恰好をやれやれと苦笑し、
一件落着した探偵社の面々も帰途につく。
そんな彼らが通り過ぎた観光誘致のポスターからは、
鮮明に撮られたアジサイとタチアオイが可憐な姿で見送ってくれていたのだった。






     〜 Fine 〜    22.06.16.


 *太宰さんのBDが近いのでちょっと焦って畳んだ感のある締めです、すいません。
  そっちも何か書ければいいんですが。
  ネットの乗り換えとかバタバタしていて、何とも落ち着かない六月なもんで、とほほ。